どこか懐かしさを感じさせるレトロな外壁。酒店ならではの木樽に立てかけられた手書き看板に誘われ、お店の奥へと足を進めると「立ち飲みスペース」が広がる。

ここ「松岡商店」は創業95年の老舗酒販店。
三代目店主の松岡弘樹さんと妻の晃子さんが経営している。
「昭和初期に初代が現在地の近くで店を構え、二代目の時に長田区二葉町5丁目へ移転しました。さらに阪神淡路大震災後の都市計画でここへ戻ってきてから約25年になります。お酒は、日本酒が冷蔵庫に保存している65種も含めて約150種類、焼酎が100種ほどです。国産のワインは15年前から扱いをはじめ、今では80種ほどを揃えています」と弘樹さんは話す。

立ち飲みスペースを始めて5年になる。調理を担当する晃子さんは、「お酒が主役になるような華やかな味わいというよりも、食事と一緒に味わっておいしい銘柄を多く集めているので、ちょっと食べながら、飲んでもらいたいんです」と話す 。
薬膳料理に取り組むようになったのは、行動制限があったコロナ禍の頃。受験勉強に励む我が子とともに「自分も何かを頑張りたい」と一歩踏み出した先にあったのが、高校の先輩による薬膳のオンライン講座だった。

薬膳は中医学の教えをベースにしているが、日本と中国では季節のあり方や気候が異なる。そのあたりを考慮した和の薬膳への知識を深め、入手しやすい日本の食材を使ったメニューを提供している。
「薬膳料理を食べながらお酒を飲むと、少し罪悪感が和らぎませんか?せっかくなら、健康的で楽しい方がいいですよね。季節によって内容を少しずつ変えていますが、試作を重ね、本当においしいものだけを採用しているので、なかなかメニューは増えませんが」と笑顔を見せる。



取材時にオーダーしたのは、お酒の飲み比べが付いたお得な「薬膳おばんざいセット&飲み比べセット」(2,000円 ※前日までに電話予約を)。料理とお酒のペアリングはお店にお任せで、この日は日本酒(冷)を合わせた。
「生ハムとびわのクリームチーズ」には「残草蓬莱(ざるそうほうらい)」を。白麹(四六式)を使ったお酒には、柑橘類のような酸味とコクがあって、さっぱりしたクリームチーズの風味を引き出してくれる。
「山芋とキノコの酒粕パングラタン」には「かたの桜 愛山(あいやま)」を。希少な酒米・愛山を使ったやさしい甘さが特長で、クリーミーなグラタンと合う。
「アジア風タコの春雨サラダ」は「県農 花てがみ」と合わせて。兵庫県立農業高校の生徒がサルビアの花から採取した花酵母を使ったもので、フルーティーな香りと甘みがエスニックなサラダと好相性。

(中)神奈川県愛川産「残草蓬莱(ざるそうほうらい)」四六式 特別純米 無濾過生原酒
(右)兵庫県加古川産「県農 花てがみ」純米吟醸 火入れ
「9月上旬はまだ夏の気配が残る時期。夏から秋への季節の移り変わりに配慮した食材を、バランスよく組み合わせました。
夏を乗り越えた身体をいたわるためにお腹への優しさも考慮しながら、汗で失われる「気」、こもりがちな「熱」、溜まった「湿気」にも配慮しています。薬膳の知恵をヒントに長芋やインゲンのほか、タコやトマト、ゴーヤ、春雨などを取り入れました。秋に向けて乾燥が気になり始める時期でもあるので、しっとり優しい素材をプラス。酒粕、チーズ、豆乳、長芋といった「白い食材」を中心に、クコの実なども盛り込んでいます。」


「薬膳キッシュ」には「日本ワイン2種飲み比べ」を合わせてくれた。
「オランジュ ルーシー」は甲州種のぶどうを100%使用したオレンジワイン。「マスカット・ベーリーA ペングイナ2024」は、日本固有種のぶどう(マスカット・ベーリーA)が使われている。香りは甘いが、口に含むとすっきりした赤ワイン。いずれも山梨産。
キッシュは「夏の余韻と秋を迎える準備」を意識して、カボチャ、クミン、豚ミンチ肉に酒粕を加えて焼き上げている。2つのワインは旨みを引き出し、クミンのスパイシーな香りを引き立てる。

ほかにも、立ち飲みできるお酒はグラス1杯(90ml)から。日本酒、焼酎(各500円)、ワイン(700円、800円)、リキュールやスピリッツにも気軽に挑戦できる。中でも日本酒は立ち飲みとしては珍しい「熱燗の飲み比べ」もあり、身体を芯から温めてくれると好評。
薬膳メニュー以外にフードは「木樽仕込味噌ミックスナッツ」や「いぶりがっこ」、「パテ・ド・九州」(300円~)など15種類ほどの肴が揃う。立ち飲みで味わい、気に入った肴が店頭で購入できるのも、品揃えが豊富なこちらのお店ならでは。

「はじめての方、あるいは何を飲んだらいいかわからない方は、お気軽にご相談ください。『今日はこんな味が飲みたい!』『これが気になる』『あのラベルがかわいい』など、率直に思ったことを伝えていただくと、お望みの1杯をお出しできると思います」と晃子さん。
これからの季節は、続々と出そろう日本酒のひやおろしと、秋の香り漂う料理も楽しみ。
7月31日(金)現在の情報です。
お店の方からのメッセージ
身近な食材を使って4種類ほどの料理を作る「薬膳料理教室」を、2カ月に1回のペースで開催しています。
※参加費5,000円(初回限定4,500円)、定員8名、完全予約制(インスタグラムまたはお電話にて)

ライターから一言
店内には晃子さんが選んだ作家物の酒器やかわいい雑貨なども並んでいます。ぜひチェックしてくださいね。