「直売所」と聞くと、車で郊外まで出かける場所にあると思う人も多いかもしれない。
山陽電車の沿線には、駅から歩いて行ける直売所が数多く点在している。
朝採れの野菜に、漁港で水揚げされた海の幸、蔵元で造られるみりん。生産者や作り手との距離が近く、スーパーとは少し違う買い物が楽しめる3店舗を訪ねた。
《東二見》畑と食卓をつなぐ「ふぁ~みんSHOP二見」
山陽電車「東二見駅」から歩くこと約5分。
午前9時の開店を迎えた「ふぁ~みんSHOP二見」には、買い物かごを手にした人たちが次々と入っていく。店内に並ぶのは、畑から届いたみずみずしい野菜。その値札には、価格とともに生産者の名前も記されている。

同店はJA兵庫南が運営する農産物直売所で、明石市二見町周辺をはじめ、加古川、播磨などのエリア内で採れた農産物を扱う。
地元の登録生産者は、朝に収穫した野菜に自ら値段を付け、バーコードを貼り、売り場に並べる仕組みで、常に新鮮な野菜が店頭に並ぶ。
季節や天候によって変わるが、売り場には常時20種類以上の野菜が並ぶ。
8月上旬に訪れた際はナスやキュウリ、トマト、トウモロコシ、カボチャなどが店頭を彩り、イチジクやブドウも出始めていた。
季節が進むにつれ、キャベツやブロッコリーなどの秋の野菜も増える。訪れる日によって出合えるものが違うという。

なかでも目を引いたのが、皮が張り、粒が隙間なく詰まったトウモロコシ。甘みがあり、シャキシャキとした食感で、旬の時期には特によく売れるという。
店内には、野菜だけではなく、米や卵、花、パン、加工品なども揃う。
北播で産まれた新鮮小玉「ぷちたま」卵は、黄身の色が鮮やかでコクのある味わい。卵を目当てに足を運ぶお客さまもいる。
日々の食卓に必要なものをまとめて揃えることができることも、地域の人々に支持される理由の一つ。

店長の中山良恵さんは「生産者さんの顔が見える新鮮な野菜が、ここの自慢です。直売所ならではの商品を探しながら、買い物を楽しんでください」と語る。
中山さんに野菜を使ったお気に入りのレシピを尋ねると、ゴーヤと卵を使ったサラダを教えてくれた。薄く切ったゴーヤを塩でもんだ後、さっとゆでて水気を絞り、ゆで卵とマヨネーズであえる。手軽に作れ、ゴーヤの苦みもやわらぐという。
「ナスであれば素揚げし、大根おろしとめんつゆに漬けたものは、家族に人気のメニューです」と笑顔で話す。
毎日のように訪れるお客さまがいるのも、単に商品を求めるだけでなく、野菜を通して四季を感じることのできる売り場だからだろう。
ふぁ~みんSHOP二見
住所 :明石市二見町東二見210-1
営業時間 :9:00~16:00
定休日 :日曜、祝日、年末年始
電話番号 :078-942-1927
ホームページ:https://life.ja-group.jp/farm/market/detail?id=1553
アクセス :東二見駅徒歩約5分
《垂水》漁港の味が集まる「神戸市漁業協同組合 直売所」
「山陽垂水駅」から南へ歩くと、潮の香りが少しずつ濃くなる。
約5分で着く垂水漁港。その一角にあるのが「神戸市漁業協同組合 直売所」。
この直売所を運営する同組合は1959年、垂水区から長田区までの7つの漁協が合併し設立。約220人の漁師が所属し、漁場の資源管理や水産業の振興などに取り組んでいる。

店内の冷蔵ケースには、釜揚げしらすや海苔、わかめ、魚の加工品がずらりと並んでいた。漁港、水揚げされた魚の加工施設、直売所が隣接する。海から食卓までの距離が近い直売所である。

約110点もある商品の中で、まず手に取りたいのが「神戸夜明けのしらす」。
神戸の漁師にだけ認められた夜明け前の時間帯に網を入れ、水揚げされたしらすの中から、透明度が高くきれいなものだけを選び、漁港内の加工場で釜揚げにする。
朝ご飯となるプランクトンを食べる前で、体内に内容物が少ない。そのため身の透明度が高く、ゆでても黄色くなりにくいという。
白くふっくらとした身には、しらすそのもののやさしいうまみがある。サラダやパスタはもちろん、酒の肴にもなり、幅広い料理で楽しめる。

イカナゴの不漁が続く中、その味を受け継ぐ商品として生まれたのが「くぎ煮しらす」。
長年イカナゴのくぎ煮に使ってきた漁協秘伝のたれで、しらすを炊き上げる。イカナゴより魚体が小さく、脂も控えめで、後味もさっぱりとして食べやすい。甘辛くも少し固い食感で白ご飯に合う。
春になると、くぎ煮やちりめんじゃこ、海苔を詰め合わせ、かつてのイカナゴと同じように季節の便りとして贈る人も増えているという。

海苔も神戸の海を代表する商品。特に12月の漁期が始まって1〜2週間の時期に摘み取る「初摘み海苔」は、やわらかく、口どけの良さと豊かな風味が特徴。手巻きずしやおにぎりに使いやすい板海苔は漁港内の加工場で加工している。
一度ほかの商品を試したお客さまが、「やっぱりこの海苔でないと」と再び買い求めてくることも多いという。

わかめは、塩蔵(えんぞう)と乾燥の2種類をそろえる。肉厚でシャキシャキとした歯応えがあり、みそ汁や酢の物に使うだけでなく、さっと茹でてショウガ醤油やポン酢で味わうのがおすすめ。わかめ自体の濃い味がよくわかるので、まずはシンプルに食べてほしい。


第1・第3水曜日と毎週土曜日には、旬の魚の刺身を販売。8月上旬はサバやタイ、ハモなどが並んだという。スーパーではあまり見かけない魚に出合えるのも、漁協直売所へ足を運ぶ楽しみである。
漁協職員の小樂﨑(こらざき)行恵さんは「定番の商品を充実させながら、来るたびに少し変わったものにも出合える店にしたい。海苔やしらす、わかめなど、ミネラルを含む海の幸を、若い世代の方や子どもたちにも日々の食事の中で味わってほしいですね。」と話す。
神戸の海で育まれた品々を、いつもの食卓へ。お店には、海と暮らしを身近につなぐ味が並んでいる。
神戸市漁業協同組合 直売所
住所 :神戸市垂水区平磯3丁目1-10(垂水漁港内)
営業時間 :9:00~16:30
定休日 :盆休み(8月14~16日)、年末年始(12月30日~1月4日)
電話番号 :078-708-1616
ホームページ:https://kobeshi-gyokyo.or.jp/
SNS :https://www.instagram.com/jfkobe3110
アクセス :山陽垂水駅徒歩約5分
《手柄》160年を超える蔵でみりんを買う「川石本家」
「手柄山 本みりん」を製造する川石本家酒類合資会社は、1863(文久3)年創業。
店舗を目指して歩いていると通り過ぎてしまうかもしれない。趣のある木造の母屋が直売所になっており、引き戸の向こうにみりんの瓶が並ぶ。
製造を行っている蔵、レンガ造りの煙突が歴史を物語る。

出迎えてくださったのは4代目の川石酒造治(みきじ)さん。
現在は基本的に一人で製造を担い、作業に応じて数人が手伝う。「日本一小さいみりんメーカーと書いといて」と笑うが、その商品を求めて地元の姫路だけでなく、三重県などの遠方から訪ねるお客さまもいるという。

実は、兵庫県はみりんの生産がさかん。酒造りの醸造技術を生かしたみりん造りが行われてきた。
みりんの主原料は、もち米、米麹、アルコール。川石本家では、蔵の周辺や山陽電車の線路沿いにある田んぼで米を育て、原料の一部に使っている。耕す人がいなくなった農地も借り受け、現在は計約7〜8反(サッカーコートおよそ1面ほど)で栽培しているという。すべてを自家栽培で賄える量ではないが、国産米を使う姿勢はずっと変わらない。

みりんの製造には多くの工程と熟成期間を必要とする。仕込みは毎年1月下旬から蒸したもち米と米麹、アルコールを混ぜたもろみを、温度を見ながら60~70日ほど寝かせる。
麹がもち米のでんぷんを糖へ変えることで、砂糖にはない丸みのある甘さが生まれる。その後、もろみを搾り、さらに整える期間を経て、瓶に詰めるまでには、およそ100日を要する。
「新しい方法は知らない。子どものころから親父に教えてもらったやり方で、今も造っています。」と川石さん。幼いころから、蔵仕事を手伝い、体で覚えた。効率だけを考えれば、別の方法もあるのかもしれない。それでも、昔ながらの造り方しか知らなかったことが、結果として味を守ることにつながったと振り返る。

人気の「純米本みりん 手柄山延寿」は、嫌みのない甘さと、料理に厚みを加えるコクが特徴。煮物や照り焼きなどのメニューに使えば、素材の味をまとめ、奥行きを生む味わいに。
米焼酎の個性を生かした「MK」は「純米本みりん 手柄山延寿」よりも甘さが控えめながらも、後味に少し力強さがある。
中でも目を引くのが、琥珀(こはく)を通り越し、黒糖の蜜のような色をした「手柄山 本みりん 10年熟成」。川石さんが代替わりの際に蔵を整理すると、長く眠ったままの黒いみりんが見つかり、調べると品質も良いみりんであることが分かった。
まずはアイスクリームへかけると、みりんの甘みがよく合った。それをきっかけに商品化したという逸品である。料理だけでなく、バニラアイスにかけたり、炭酸で割ったりしても楽しめる。
ただ、みりんはアルコールを含む酒類である。飲用する場合は20歳以上に限られるので注意が必要。

黒糖を思わせる濃厚な甘みとコクを持つ「手柄山 本みりん 10年熟成」
もう一つ、川石さんの発想から生まれた商品に「手柄山 本みりん 極醸」がある。
日本酒造りに使われる酒米「山田錦」と、兵庫県宍粟市の庭田神社を発祥とする「庭こうじ」を用いた。一般的なみりんではコスト面から使われにくい米だが、あえて原料に選んだ。
口に含むと、澄んだ甘さが広がり、後味は軽やかである。少量をじっくりと味わってみると、みりんが単なる調味料ではなく、米から造る「酒」であることをあらためて実感した。

設備の維持・更新、原料の高騰など取り巻く環境は厳しいが、5代目への継承も視野に入れ、川石さんは「できるだけ変えんように、受け継いできた味を守りたい」と話す。飾らない言葉の奥に、160年を超える蔵を次代へ渡す責任がにじむ。

販売は母屋で対応。事前に訪問時間と購入希望の商品名・数量を電話で確認しておくと安心。
電車で訪ねれば、状況に応じてみりんの試飲もできる。調味料として選ぶ前に、そのままの味を知る。それも蔵元を訪ねる醍醐味である。
川石本家酒類合資会社(手柄山 本みりん)
住所 :姫路市手柄148
営業時間 :9:00~17:00
電話番号 :079-223-0896
ホームページ:https://kawaishihonke.com/
SNS :https://www.instagram.com/kawaishihonke1863/
アクセス :手柄駅徒歩約10分
畑から届いたとれたての野菜、夜明け前に水揚げされたしらす、蔵で時間をかけて造られたみりん。
3つの直売所に並ぶ商品は、どれもそれぞれ土地の仕事と繋がっている。
車窓の風景を楽しみながら駅から歩き、持ち帰れる分だけを丁寧に選ぶ買い物は、電車旅ならではの贅沢な時間だ。野菜の旬を知り、海の香りを感じ、造り手の思いに耳を傾ける。
いつもの山陽電車に乗って、沿線のとっておきの味を探しに出かけてみては。
今回訪れたスポットまとめ
※2026年8月6日(木)現在の情報です
